グリーンシートは、オープンマーケットのサプライチェーンに影響を与えるトレンドに関する、Fusion Worldwideの月次レポートです。最新のレポートでは、集積回路(IC)、CPU、メモリ、GPU、ネットワーク製品業界に影響を与える需要と供給の変化について詳しく説明しています。
一部のメーカーが余剰在庫に対応している一方で、車載、新エネルギー、AI業界に不可欠な部品の不足が続いている企業も見受けられます。各社が需要に対してより的確に対応するために製造能力をシフトしているものの、これらの戦略によって在庫を改善し、リードタイムを短縮するにはまだ時間がかかると思われます。
市場の動きについては、以下のレポート全文をご一読ください。
MOSFETのリードタイムが延長され、車載、新エネルギー、ストレージ業界に影響
全体的に、MOSFETの供給は、需要の低いシリーズに対しては徐々に改善されています。しかし、需要に供給が追いついていない領域もあり、Infineonやonsemiのようなメーカーのリードタイムは延長傾向にあります。SiC、IGBT、高電圧MOSFETなどの製品については、リードタイムが60週間以上となっています。また、在庫数が限られているため、すべての部品の価格は上昇傾向にあります。
このような製品の需要により、onsemiは、高電圧および低電圧MOSFETに生産の焦点を当てるようになってきており、特に新エネルギー、車載、およびエネルギー貯蔵用途の部品を重点的に生産しています。
メーカーは供給に制限のある製品のサポートを強化しようとしてきたものの、顧客に対して、当面の間は割り当てを確保するのは困難である旨を伝えたとのことです。部品の在庫制限を受け、一部の顧客は生産スケジュールを確実に遵守できるよう、代替製品やブランドを模索するようになりました。
在庫不足が続く中、第2四半期決算を受けSTMの車載用部品に価格変動が発生
STMicroelectronicsの第2四半期決算報告書によると、同社の車載用およびパワーディスクリート製品は二桁成長を遂げ、売上高は34.4%増加したとのことです。車載市場が好調なため、STMはこの業界へさらに注力するようになってきており、価格変動が発生しています。
車載用ICに対する需要の高まりが続いている中、4月上旬以降、VNシリーズに対する動きが特に活発化しています。このシリーズのハイサイドドライバ、特にモデル名がVNLxxx、VNNxxx、VNQxxx、VNDxxxの製品については、昨年から欠品の報告が相次いでおり、依然として供給が逼迫しています。在庫状況が改善しない場合、制限は小規模なTier 1サプライヤにまで波及する可能性があります。車載業界以外では、これらの部品により、以下の業界で電力管理と故障状態からの保護が可能になります。
NXPの生産地変更によりMCUの不足が続く見込み
NXPのMCU供給は年間を通じて不足が続いており、2023年からMCIMX6シリーズのリードタイムは99週間を超えています。供給は改善されず、MCIMX6シリーズについては、10%から15%の価格上昇が見られました。NXPが生産ラインナップと生産能力をMCIMX8シリーズに集中しようとしているため、供給不足は続くと思われます。MCIMX6のリードタイムは短縮されたものの、未だ87週間前後で推移しています。
また、EV需要の増加により、S912ZVLシリーズのような車載用MCUは供給制限が続いています。MC9S、MCF、MKシリーズのような製品は、生産能力と配分が限られているため、供給制限を引き起こしています。NXPは、ウエハに搭載できるチップ数の制限が稼働率に影響するため、S912ZVL、MC9S、MCIMX6のような旧モデルの増産計画はありません。
このような状況により、価格上昇とリードタイム延長が発生し、リードタイムは目下38~52週間となっています。特に、TS18UHVやCLN40LPなどの一部のピンパッケージは、コスト上昇のため将来的に供給制限に直面する可能性があります。S912ZVL12ACLFシリーズ、特にTS18UHVピンパッケージは需要が高く、産業制御、AI、その他の用途で使用されています。
Intelがデスクトップ向けCPUの需要でAMDを上回る
デスクトップ向けCPUの市場需要は依然として低迷しているものの、8月に入りPC市場の取引が活性化し、改善の兆しが見えてきました。Intelの第10世代Comet Lakeシリーズについては、スポット需要が少ないため供給が慎重に管理されており、性能と手頃な価格のバランスからi3とi5プロセッサに集中しています。i3プロセッサはより単純なコンピューティングタスクに適している一方、i5プロセッサはより強力であるため、高い性能を必要とする用途に適しています。
顧客は主にメーカーの提示価格よりも安価なものを探していますが、それはますます困難になってきています。この種のコスト削減は、OEMが提示できる値下げやリベートのため制限されており、OEMは通常、可能な限りコスト効率の高い製品を提供しています。需要が急騰しない限りはすでに底値の状態であり、供給は安定しています。
これに対し、AMDの取引は、Intelの需要をさらに下回りました。AMDの受注規模の予測には楽観的な見方があったものの、誤りであったことが明らかとなり、予測を20%下回る結果となりました。需要と取引の低迷により、AMDの正規代理店が人員削減を行うのではないかという噂が広まってきました。何らかの変更があれば、PCのCPUパートナーに影響を与える可能性が高いと思われます。
IntelのモバイルCPU価格が上昇傾向
価格上昇が続く中、Intelの第11世代Tiger LakeモバイルCPUの取引が鈍化しています。7月の製造中止発表後は供給能力が低下してきたものの、供給制限があるとはいえ、顧客の購買行動は価格高騰による緊急性に左右されています。
しかし、第12世代Alder Lakeと第13世代Raptor LakeモバイルCPUへの関心は高まっています。製品の確保を求める顧客は、依然としてコスト削減を前提とした発注をするのみに留まっていますが、全体的な供給は堅調と思われます。Raptor Lake RefreshとMeteor Lakeが発売されれば、需要の状況は、第3四半期の終わりから第4四半期に向けてより明確になるでしょう。
AMDとIntelがサーバ市場のシェア争いを継続
AMDのサーバ市場シェアは拡大を続けており、同社のCEOは先日、AMDの市場シェアが25%を上回ったことを発表しました。この発表は、第4四半期に発売される最新の生成AIアクセラレータであるInstinct MI300シリーズの製造を、TSMCが担当することを確認した後に行われました。オープン市場の傾向としては、AMDのMilanシリーズとGenoaシリーズのサーバCPUが支持されています。需要は主に、以下のシリーズに集中しています。
Genoaシリーズの採用率が上昇しているのは、前シリーズと比較して大幅に性能が向上したためと考えられます。
Intelはサーバ分野で再び優位に立てるよう、特定の流通チャネル向けの特別価格を休止し、収益性を高めることを計画しています。特に、この戦略は旧シリーズのIntel Cascade Lake Refreshプロセッサに影響を及ぼしています。より良い割引を提供することは、特にTier 1顧客の中からより多くの顧客を獲得するのに役立つと思われますが、まずオープン市場での需要を改善する必要があります。しかし、これは供給過多の問題を回避するために、ベンダーが在庫水準を維持した結果と思われます。在庫が枯渇すれば、顧客は再び部品の在庫を確保しなければならなくなり、需要は高まるはずです。
Intel、AMDの両社ともに需要がまだ予測に達していないため、サーバ用CPUの価格は依然として交渉可能です。
ストレージ価格の下落傾向により減産に
未だに需要が低いため、年初に行われたNAND型フラッシュメモリの減産は妥当であったことが明らかになりました。価格の下落は続いており、SamsungやSK Hynixなどの企業は、第2四半期の決算報告で、NANDの価格が10%も下落したと報告しています。両社とも、少なくとも需要が再び回復するまでは、NAND生産の調整を行ってゆくと発表しました。家庭用電化製品の需要は依然低迷しており、さらに中国スマートフォンブランドの在庫処分も停滞していることから、供給過剰と0~5%というさらなる価格低下が、第3四半期に現実となる可能性が高いと思われます。
さらに、この状況はSSDにも波及しています。メーカーやベンダーが損失を削減するために在庫を処分しようとしており、SSDの価格が下落してきました。顧客向けSSDの受注台数は、前年のピークシーズンを下回る可能性が高いと思われますが、生産能力が徐々に通常レベルにまで回復してきたため、すでに供給量が増加している可能性があります。エンドユーザが予測を下方修正したため、顧客向けSSDの価格は第3四半期中に3%から8%下落する可能性があり、これを受けて、代理店は余剰在庫の蓄積を避けるために値下げを行いました。
一方、エンタープライズ向けSSDの価格は、同市場が堅調であることから第2四半期と比較して横ばいで推移する見込みです。予測によると、需要が堅調に推移すれば、エンタープライズ向けSSDの世界的な調達能力は、前四半期比で10%向上するとのことです。
DDR5の供給制限が悪化する中、メモリモジュールの価格は安定し始める
右肩下がりの時期を受け、需要と供給の不均衡が変化したことで、メモリモジュールの価格が安定し始めました。価格が大幅に上昇するには、時間を要するでしょう。このプロセスは、メーカーがDRAMの減産を行うことによって加速される可能性があります。オープン市場での供給が枯渇し、需要が供給力を上回れば、価格は上昇するでしょう。
一方、DDR5モジュール、特に高密度製品は、引き続き供給問題を抱えています。供給制限の引き金となったのは、需要の高まりと、特定のサーバアプリケーションとの下位互換性がないという問題が同時に発生したことでした。現在、サーバ向けDDR5の採用は、Intel Sapphire RapidsとAMDのGenoaシリーズの採用が前提となっています。現時点において、クラウドサービスプロバイダとAIサーバ製造業者は、2桁の利用ラインをようやく上回りました。Sapphire Rapidsの採用率は、約7%~11%です。来年6月までには、普及率は50%近くまで伸びると考えられます。
採用率は低いものの、生産はすでに注文量に追いつくのに苦戦している状態です。採用率が上昇し、需要が高まれば、メーカーは需要を満たすために生産能力を増強しなければならなくなります。現時点では、Tier 1顧客への割り当てが優先されており、供給が制限されたままであれば、この傾向が継続する可能性があります。
さらに、メーカーは、現在の価格帯を維持するために特別価格の認可を減らしています。しかし、顧客は代替品を活用してコスト削減の可能性を見出すことができるため、オープンマーケットにおける十分な供給能力が、この戦略の弊害となっています。
AI業界でGPU需要が高まる
AI業界の活況は、エンタープライズ向けGPU市場に大きな需要をもたらし、供給競争と価格競争を激化させました。市場価格は急速に上昇し、既存注文の出荷にはすでに遅延が発生しています。こうした市場の急騰により、ベンダーは特別プロジェクト価格の承認を受けることが少なくなり、現状メーカーの割り当ては制限されています。
小規模企業が自社のAIビルドにこれらの製品を使用するケースが増えているため、この傾向は、消費者向けGPU市場、特にNVIDIAのRTX4090にさらに影響を与える可能性があります。今年はゲーム業界からの需要が殆どなかったため、消費者向けGPUの供給は現在好調です。さらに、注文が増加したとしても、RTX4090についてはコスト削減のチャンスがあります。
人気に関しては、NVIDIAのTeslaシリーズGPUであるA100、A800、H100が依然として最も需要が高く、結果的に供給が最も逼迫しています。限られた在庫と激しい部品競争により、リードタイムは延びています。A100は製造中止のためますます入手困難となっているため、顧客は、より入手しやすいものの、リードタイムが45~52週間を維持しているH100に流れています。
NVIDIAの新型L40の発売日が間近に迫っていることから、同社はAI関連の用途向けについては、Tesla A100やA800からの移行を引き続き顧客に推奨する可能性があります。供給が限られている現状は、メーカーがこの機会に旧シリーズを段階的に廃止し、第4四半期のL40の発売に間に合わせることを意味している可能性があります。
ネットワーク製品のリードタイムが20週間を超える
AI業界におけるGPU需要はネットワーク製品市場にも波及し、NICカード、光ファイバーケーブル、光トランシーバ、高速スイッチの需要を増大させています。現在、顧客は高価格帯の部品に注目しており、需要増に見合う生産ができず、リードタイムが延びています。オンデマンド製品の見積リードタイムの目安は、次のとおりです。
大半の高速製品の予約リードタイムは最低でも16~20週間に延びており、メーカーは生産能力の増強に苦慮しています。
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